夏にいただく冷奴と切っただけのトマト、おいしいですよね。
季節のごちそうも、毎日果てしなく続くと、ちょっとした修行感が漂いだしますが・・・。
無口な人の「うまい!」が招いた、毎日同じもの・・・
木綿豆腐の冷奴とトマト
わたしが高校を卒業するくらいまで、実家で毎日のごはん作りをしてくれていたのは祖母でした。
実は祖母は調理師免許も持っていて(祖母が認知症となり、特別養護老人ホーム入所後に荷物を整理していて判明)、祖母自身、料理は得意だと思っていたようです。
でも、毎日の晩ごはんのおかずをバリエーション豊かにするのは難しかったと思います。
4世代7人家族で、偏食気味な家族が半分を占めていたからです。
わたしが小学校高学年、兄が中学生だった夏のことです。
当時、兄は思春期真っただ中で、家の中ではおそろしく無口な男になっていました。
野球部だったので、毎日汗まみれ、泥だらけになって帰ってきました。
ある日の晩ごはんで、木綿豆腐の冷奴と、切っただけの冷たいトマトが食卓に並びました。
めったに家族と口をきくことのなくなった兄が、冷奴とトマトを食べ、「うまい!」とひと言漏らしました。
祖母がそれを聞き逃すはずがありません。
マイブームが来ると一途にそればかり作ってしまう祖母ですので、そこから怒涛の冷奴&トマトラッシュがはじまりました。
兄の「うまい!」のひと言が、祖母の強固な根拠になったようです。
祖母が用意してくれる冷奴とトマトは、「切って冷やした木綿豆腐」と「皮をむいて輪切りにしたトマト」で、それ以外のバリエーションはありませんでした。
ひたすら、同じスタイルの冷奴とトマトでした。
兄がギブアップしたのが先か、トマトの旬の時期を過ぎたのが先か忘れましたが、1ヶ月ほど冷奴&トマトラッシュが続きました。
その後、祖母がどんなにおいしいおかずを作っても、兄が「うまい!」と言うことはなくなりました。
いくらおいしくても、1ヶ月同じ料理が続くのは勘弁してほしいと思っていたようです。
その次の祖母のマイブームはトマトのデザートでした
家族に敬遠され気味になって終わった祖母の冷奴&トマトラッシュですが、次のシーズンはトマトのデザート作りが祖母のマイブームになりました。
料理上手なご近所さんに教わったようで、トマトの皮をむき甘いシロップと共に蒸しあげて冷やす、というものです。
トマトのデザートを大歓迎したのは、わたし、母、曾祖母の女性陣のみでしたし、「おかず」にはならなかったので、ブームは長続きしませんでした。
わたしは祖母の作るトマトのデザートが大好きで、その後も何度かリクエストしたのですが、「どうやって作るか忘れた」と作ってもらえないままでした。
それでもおいしい冷奴とトマト
わたしを含め兄以外の他の家族も、一時期、冷奴とトマトには引け腰になりました。
実家の家族のメンバーは代わりましたし、わたしも自分の家族を持ちましたが、夏はやっぱり冷奴とトマトが定番です。
先日、祖母を思い出して、木綿豆腐の冷奴と、皮を湯むきして輪切りにしたトマトを晩ごはんに用意してみました。
木綿豆腐を好む夫と、トマトの皮が歯の矯正の装置に挟まらずにすむことを喜ぶ娘に、それぞれ歓迎されました。
今なら、1ヶ月も続けて冷奴とトマトを準備していた祖母の気持ちがよくわかります。
「うまい!」、「おいしい!」、「これ、好き!」のひと言は作る側にとってはかなりの魅力があります。
続きすぎて敬遠されないよう気をつけながら、簡単に作れる季節のごちそうを楽しみたいと思います。